【体験談】ノルウェー疥癬って知ってます? | うちの施設であったダニ騒動
こんにちは、介護福祉士のまちかです。
皆さんは疥癬(かいせん)を知っていますでしょうか。
海鮮? カイセン?
何それ美味しいの?
ってか何て読むの?
そんな人は、まずはこちらをどうぞ。
知ってる人は目次からで大丈夫です。早い話がダニに寄生されあちこち痒くなっちゃう状態です。
「公益社団法人 日本皮膚科学会」様はこう仰っております。
疥癬は「ヒゼンダニ」という小さなダニが人の皮膚に寄生しておこる皮膚の病気で、人から人へうつります。この病気には「通常疥癬」と呼ばれるものと、感染する力が非常に強い「角化型疥癬」と呼ばれる2つの種類のタイプがあります。
このブログを読んでくださる方々は、ほとんどが介護か医療の関係者だと思いますので、感染症研修を受けた人ならある程度はご存知だと思います。
戦後の衛生状態が悪い時ならいざ知らず、この令和の時代になっても、まだ行くところに行けば人に危害を及ぼすダニはいます。
というか、介護施設が増え高齢者が集団で暮らすようになったせいで、むしろ復活してきているらしいです。
今回は私が経験した疥癬騒動、それも角化型疥癬(痂皮型とか、重症型とか、ノルウェー疥癬とか呼ばれてるヤベーやつ)の体験談です。
最初の感染ルートは病院から
当たり前ですがウチの施設の場合、最初は全員大丈夫でした。
ある日、1人の認知症持ちの入居者さんが、肺炎か何かで数週間ほど入院したのが始まりです。
病院でどういった暮らしをしていたのかは知りませんが、帰ってきてからやけに体中を掻きむしるようになっていました。
日常的に高齢者を相手にしている人なら分かると思いますが、大抵の場合、認知症者が体を掻いていても、老人性の乾燥か、もしくは湿疹ぐらいにしか受け取らないと思います。
当時は、定期的に来ていた訪問診療の先生も含め、疥癬の知識はあったとしても実際の経験など誰も持ち合わせておりませんでした。
そのために、事態の深刻さに気づいた時にはかなり手遅れだったのです。
感染ルートはざっとこんな感じです。
①退院してきた入居者
→②日々のケアをする介護士たち
→③他の入居者(ここで疥癬が更に悪化)
→④何も知らない介護士(私も含む)
間に重症型の入居者を挟んだのが、広まった一番の原因です。
ここで注意して欲しいのが「通常疥癬」だけなら、集団感染は引き起こさなかった点です。
普通の免疫力があれば、何もしなくても治ると往診の先生には言われました。ダニ数匹程度ならそうでしょう。ペットなど飼っていれば、ノミやダニはお友達です。
むしろ、抵抗力を鍛えるのにはいいぐらいでしょう(オイオイ)
ですが高齢者の場合、逆に悪化させたりもします。
ダニに気づくまでタイムラグがある
参考文献によってまちまちですが、ヒゼンダニの寿命は約2ヶ月未満。その間に交尾をして卵を1日2~3個づつ産み続け、疥癬トンネルという住むための空洞を、人体の柔らかい部分を選んで掘り進みます。
そのため、人から人に寄生してもすぐ痒くはなりません。注意したいのは潜伏期間のせいで、更に他の人にも移してしまうところです。
痒みの原因は、虫喰われというよりもフンや死骸などのアレルギー反応だそうです。
私の場合、最初は二の腕の内側に痒みを覚え、気づくと赤い点々が2~3個ありました。虫刺されかなと思い、何もせず生活をしていたのですが一向に良くはなりません。
それどころか次第に、掻く手はお腹や股、内ももなんかにも伸びていきました。今考えれば時を同じく、同僚も似たような訴えをしていました。
多分ユニフォームが半袖なため、柔らかい所として二の腕が最初だったのでしょう。
まだこの時点では、個人個人が「何かおかしいな」とは思っていても、まさか集団感染しているなどと微塵も頭にはありませんした。
感染している人も日常生活を送っていましたし、全介助で移乗する際は相当密着していたと思います。
そして数ヶ月が過ぎ、気づいた時にはパンデミックです。人々の身体で次々と卵が孵化し、取り返しの付かないことになっていきました。
疥癬の診断は誤診が多い!?
普通の高齢者施設では、訪問診療の先生が何もなくても、定期的に診に来てくれると思います。
私の所ではそれとは別に、皮膚科の先生が月1回、褥瘡や巻き爪の処置で対応に来てくれていました。その際、数人の入居者と職員の状態を診てもらったのです。
そう、診てもらったのです。
ですが、通常、疥癬の診察は赤くポツポツと発疹が出ている部分を切除して、それを顕微鏡で視て診断します。
その皮膚に卵や抜け殻、ダニそのものが生息していたら確実なんですが、大抵の場合はもう移動していて、見つけられないことが多いのです。
誤解を恐れず書くなら、普通の皮膚科に受診しても、一発で見つけるのは困難でしょう。これは先生がポンコツと言うよりも、単に疥癬に対する臨床経験が少ないのが原因だと考えます。
高齢者に対して往診をやっている皮膚科の先生でもない限り、症例が少な過ぎて正しく診断できないんだと思います。
私の施設でも、結局その場では顕微鏡も検査セットもなかったため「疥癬かもしれない」ぐらいの診断しかおりませんでした。
後日、先生の診療所に行ける人は通院して、行けない人は顕微鏡カメラ&タブレットPCが一緒になった医療機器(ダーモスコピー検査)で、診察を受けていました。
ただ、実際にヒゼンダニが見つかった人は数人程度で、ほとんどは痒みの訴えはあるものの診察では見つけられませんでした。
それでも予防も含め、怪しいと思われる入居者と、希望する介護職員には全員、痒み止めの「オイラックス軟膏」と特効薬のイベルメクチン「商品名:ストロメクトール」が処方されたのでした。
重症型疥癬は「キングスライム」
通常疥癬は上記の対応で済んだのですが、角化型疥癬(ノルウェー疥癬)はそうはいきません。
というかここからが本題です。
ネットを見回しても、ノルウェー疥癬の対応方法は結構ありましたが、実際の体験談は見つけられなかったのでココが初めてかもです。
普通の疥癬と比べ、ヒゼンダニの量は数十万倍。免疫力が落ちてたり、お風呂入らなかったり、あとは治療方法が間違ってたりしてスライムがボス化します。
我が施設も、このキングスライムがいたお陰で集団感染してしまったのです。
以下、感染した入居者の情報です。
要介護5
90歳(年相応の認知症状アリ)
声がけに対し、簡単な会話は可能
ほぼ寝たきり、座位保持は困難
既往歴、悪性リンパ腫、骨粗鬆症
右大腿骨 転子部骨折
具体的な対応方法としては、部屋での完全隔離。食事は3食とも配膳し、出入りする職員も限定。入退室する時は、ビニール性の使い捨て防護服を着用します。
更には毎日シャワー浴を行い、硬くボロボロになった皮膚をはぎ取る作業をしました。
部屋でストレッチャーに寝てもらい、浴室へ運び、介助者二人で全身をガシガシとブラシで洗います。
その後、処方してもらった軟膏を全身に塗り、残った角質がこぼれ落ちないよう服を着てもらいました。脱ぎ着がしやすいよう浴衣がベストです。
このとき思ったのが、体はゾウの皮膚のように厚くなっていたのに、不思議と顔だけは何ともなかった点です。(既に常在菌の顔ダニが生息しているせい?)
一方、掃除係は寝ていたベッドを
シーツ交換→床清掃→熱湯消毒
の順番でダニを抹殺します。戻って来たときに再び感染しないよう、クリーンな状態を用意しておかなければ無限ループが続きます。
また、我々もダニをもらわないよう、掃除や洗身の時は防護服を着たまま対応します。
浴室で、ガシガシとやって落ちた角質にも大量のダニがいるので、他の入居者に感染させないよう、全ての入浴が終わった後に行わなければなりません。
最初の数回は、往診で来ていた皮膚科の先生自ら、Tシャツ&短パンにまでなって率先し、入浴介助の指導に当たっていました。
当時、既に軽く60歳は越えていた方でしたが、治療方針を間違えて悪化させた罪滅ぼしか、単に貴重な症例だからかは判りませんが、それはそれは熱心にブラシをかけていました。
その後は、主任や施設所属のナース、男性職員など、とても未来ある若者には任せられない作業だったので、仕方なくベテランだけでローテーションを組み、一ヶ月ほどで収束したのでした。
以上、うちの施設であったダニ騒動のお話でした。
今後、高齢者施設は増えていくので、皆さんのすぐ後ろにも、ダニの魔の手は迫ってきているかもしれません。これを参考に、役立てていただければと思います。
おわり